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「神戸、海」20160403
マークスの山などの著作がある直木賞作家高村薫氏の文からの引用です。
→子どものころ日曜日毎に神戸港に連れて行かれた。そのせいで舟が好きになったのだと思うが、プラモデルの戦艦から小さなポンポン舟、漁船、貨物船、タンカ―に至るまで舟と名がつくつくものにはとにかく胸が躍る。神戸はかつて、海事関連書籍専門の有名な海文堂書店があり、そこで見つけた北転船の写真集はいまも私の宝物だ。(中略)
ところで二月には、大型船舶の運航に必要な海技士の免許を持つ民間船員を予備自衛官にして有事に活用するという、防衛省の計画についての新聞記事を読んだ。(中略)この防衛省の記事にはおもはずこの眼を疑った。戦後71年、いつか戦場に駆り出される日を覚悟して船乗りなった人いないはずだ。海技士の1級や2級は合格者も少ない超難関だが、記事によれば元海上自衛官で有資格者の予備自衛官は十名ほどしかおらず、輸送艦も三隻しかないため民間の船舶と船員をあてにしなければ、戦闘員や装備の海上輸送さえままならないということらしい。これについては、全日本海員組合が反発しているというが、ひとたび有事となれば、其れこそ非常事態法などによって強制的民間船舶と船員が帳用されることになるかも知れない。
ひと昔前には想像もできなかった、こんあ無謀な計画が現実に防衛省で練られ、それがさらりと記事になる。テレビなどのメディアはどこも騒がず、こうして一つ、又一つタガが外れていくのを止める政治家もいない。たとえば多数の負傷者に即応するだけの外科処置の能力を持たない自衛隊が、戦場へ出て行くことの異様。そもそも敵地攻撃能力など端から持ってないのに、その可能性が大声で語れる異様、輸送艦が3隻しかないのに、集団的自衛権に地理的制約はないとされる異様。平和な朝のいつもの新聞のすみずみに、異様を異様と感じなくなった時代の異様が覗いている。←。(図書、2016年4月号より)
神戸にはサラリーマン時代、「シンセン、」(三菱重工神戸造船所)があった関係で何度か訪れた。三ノ宮の駅を降りると、汐の匂いがしたことを懐かしく想い出しています。
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