浪速の空から 筒井 邦子 あぁ またやってるなぁ。 「バカにバカと言ってどこが悪いんだ」 そら間違こうてはないけど,バカはいかんわ,バカは。 これまでせんど教えたけど,いつまで経ってもなおりませんなぁ。 バカ呼ばわりされると大阪人は一番怒るんよ。 まぁそんな場合は,「あんたはアホか」と言えばええんよ。アホ言われても大阪のモンはあんまり怒らんからね。 アホ言われたら,「そうやねん,うちはアホやねん」で済むこともありますんや。 それを,三宅センセいうたら,いっつも生徒や保護者をつかまえては,いとも簡単にバカ呼ばわりをする。そら保護者も 「バカとはなんや。バカとは!」と怒るわ。アホ言うたってください。きっと保護者は「そうですねん,うちのガキは アホですねん」言うて後の話があんばいよう進んでゆくこともあるんやから。 大阪の人間は,どっか自虐的いうか露悪的なとこもありますもんね。 しかし不思議ですな。今時大阪と東京いうたら新幹線で3時間もかからんのに,言葉の壁はなかなかなくなりませんな。 あの三宅センセがいつも悶着を起こすアホとバカの微妙なニュアンスの違いなんか,東京モンにはちょと分かり にくいんですやろうね。 大阪のお笑いが,東京に進出して,大阪弁もだいぶ知られるようになり,アホいう言葉も使われることがあるようやけど, まだまだその真髄は分かりにくいですかな。 小学校から英語を勉強せえ言われて,日本語をほったらかして外国語を覚えないかんというご時世に,狭い日本の大阪と 東京とで言葉の壁を感じるやなんて難儀な話ですな。 暇つぶしにアホとバカについてちょっと考えてみましょか。 アホいう言葉は,なかなか複雑な趣のある言葉やと思います。バカとおんなじように相手をけなすときに使うけど, 「バカ」言われるときつう感じるけど,「アホ」言われたらなんや気ぃ抜けたようで,親しみを感じさせることもある この感じはなんですやろ。 多分バカはあんまり言い慣れないというか,言われ慣れてないので,「バカ!」と怒られたら,にべも無く言われたような 気分になるからですかな。 「アホ」でも,ひどいときには噛んで吐き出すように「このドアホが!」と怒鳴られますなぁ。でもエライ怒られて首を すくめるけどすぐにケロッとしてしまうような,なんや愛嬌があるように感じますな。ぼくが思うに言葉に厚みを感じる いうことなんですかな。 あんまりきれいな言葉やないけど,強調するときにこの「ど」を付けることが多いですな。「ど根性」とか,「どけち」 とか「どたま」とか。「どたま」いうのはホンマ汚い言葉で頭に「ど」を付けただけやけど,喧嘩で「どたま かちわった ろか」言うたりすると,ほんまに下品で迫力ある言葉で,これはぼくもあんまり使いたない言葉ですわ。 こんな言葉が多いから大阪弁は品がないと言われるんですやろね。 ほかに「アホ ボケ」または「ボケナス」いう言葉もあるけれど,これも相手をけなす汚い言葉やけど,東京いうか, 標準語ではどないなるんでしょ。きっともっと歯切れのええ相手を完膚なきまでにやっつける言葉があるんでしょうな。 このように怒る時とはちょっと違う甘えたような可愛い言い方もありますな。 例えばゆったりと「あんたアホやなぁ」とオナゴにしなだれかかって言われたら,オトコはなよなよとして,「夫婦善哉」の 世界ですな。こんな場合の「アホ」には男女の狎れ親しむ雰囲気があって,なかなか味のある言葉やと思います。こんな 「アホやなぁ」を言われて怒る人はまず居ませんな。 「アホ」という言葉で男女の機微もうまいこと出せる。ぼくは思うんやけど,狎れるというか,ちょっと色っぽい言葉やと。 「狎れる」いう言葉もぼくは好きやねぇ。 東京弁で「イヤーンバカー」という言葉を聞いたことがあるけど,なんか甘えた言い方なんやろうけど, 蓮っ葉な品のなさを感じますなぁ。 でもまぁ「アホ」いう言葉はよう使われてますなぁ。 「アホやなぁ」「アホかいな」「アホちゃうん」なんかをうまいこと使いこなせたら,アホみたいにうまいこと 世の中まわりますやろね。 「アホ」のあとになんや余韻が残るんかなぁ。「バカ」言われたら,そこでぴっしゃと突き放された気ぃがするのは, 関西人やからかなぁ。東京の人は,そない言われても気にならんのですかな。 しかしやねぇ,使い慣れんと微妙な味は出せんし,相手にも思うようには伝わりにくいいうことはあるわねぇ。それに東京人 相手に,「アホ」言うたら,東京人はどない思うんやろ。きっとぼくらが「バカ」言われて怒るような気になんのかも 分かりませんな。 でもねぇ三宅センセ,せめて大阪では「バカ」は使わんようにしてほしいと思います。 このガッコは,まぁ言うとこの三流高校で,やんちゃする生徒はようさんいてる。それをいちいちバカバカ言うてたら やってられん。三宅センセも,生徒をちゃんと見てて,出来が悪うてもやんちゃしてても,かわいげのある生徒はかわいがりも するけど,へりくつ言うたり,へんにずっこいやつには厳しいですなぁ。 そんなガッコやから毎年手の掛かる生徒がせんぐりせんぐりやってきますなぁ。三宅センセがムキになって生徒や保護者に怒る いうことは,まじめなんかもしれんですわね。エエ加減にしてたら,そんなムキになって怒ることないですもんね。 やっぱり三宅センセは,子どもたちが好きなんですね。ぼくは最近センセ見ててつくづくそう思うようになりましたわ。 この職員室かて三流につろくしたエエ加減なもんです。 ちょっと見てて。そろそろ田島センセしゃっくりしだすで。あのセンセはいっつも弁当いうたら,パンとニヌキとコーヒー なんやけど,ニヌキ食べたら胸につかえてじきにシャックリしますんや。そやけど一日一つはニヌキ食べな落ち着かへんねんて。 ぼくかてニヌキは好きやけど,そうまいどまいど食べとうてしゃあないいうことはないですな。 田島センセは生粋の大阪人なんやけど,大阪人いうのはニヌキ大好きなんですかな。 話は違うけど,大阪のおばちゃんは飴ちゃんが大好きなんやて。 この間テレビ見てたら,大阪のおばちゃんは,いっつも飴ちゃん持ってるて言うてましたなぁ。 そう言うたら,ぼくのヨメハンかていっつもバッグに飴ちゃん入れてて,ドライブしてる時も,自分の口に一個放り込んで, 必ずぼくにも「お父ちゃん 飴ちゃんいらん?」て聞きますなぁ。なんであんなに忘れんといっつもバッグに入ってるんやろ。 ヨメハンが行ってるカミイさんかて,終わったらいっつも「おおきに」言うて飴ちゃんを3個ほどくれるらしい。時々新製品を 貰ったりして,飴ちゃんのレパートリーが広がる言うてヨメハンは喜んでます。 こう思うてきたら,大阪はいつまで経ったかて垢抜けせんで,都会的になれんのがよう分かりますな。大阪は,建前やない, 本音で勝負や言うけど,その本音は時代に合わん泥臭い自分勝手な独りよがりなものなんかも知れませんな。 トラやヒョウの柄の服のおばちゃんが跋扈するど派手で,泥臭い街で,軽やかに世界に羽ばたくには,重すぎですな。ちょっと 悔しいけど・・・ 思いつくまま喋ってきたけど,ぼくの独断と偏見で贔屓の引き倒しみたいですな。 けどそんな大阪ぼくは好っきゃなぁ。 註 つろくした・・・ふさわしいというか, 程度が合っていること ニヌキ・・・・・ゆで卵 カミイさん・・・美容院